オイルステインとは
上田らは1)サビ止メ油を塗られた鋼板、鋼管が貯蔵の際に積み重ねられ、あるいは部分的に接触していると、その接触面に溶剤などでは簡単に除去できないいわゆるオイルステン(油焼け、油じみ、油にじみ、オイルステイン)が発生することがある。このオイルステインは場合によっては種々の様相を呈し、例えば圧延鋼板では薄黄色、紫色または灰色などの大きな縞模様になることが多い。これらのオイルステンは点サビのように金属表面の浸食が明らかでないので、一見鋼材に致命的結果を与えないかのように見えるが、つぎの工程でこれがメッキや塗装される場合には、このオイルステン発生個所は重大な結果となり、鋼材の商品価値を失う大問題となると言っている。田中2)3)はオイルステインは錆の前駆体となるばかりか、めっきや塗装した場合にはオイルステイン発生個所がムラになると言っている。
田中3)はさび止め油がオイルステンに遭遇する場合に、2つのケースが考えられる。その一つはさび止め油が塗られ、つみ重ねられるか、またコイル状に置かれた鋼板の内側に発生するシミ状の変色と、他の一つは、やはり錆止め油が塗られた鋼板が直接日光にさらされるか、溶接などの紫外線が、当たるそばに生ずるラッカー状の変色であると言っている。また、2つのケースの発生原因を探索し、先の場合は、夏季に湿度の多い時に発生しやすく、その発生原因に水分が関係する事をつきとめ、これを湿式オイルステンと名づけ、また後の場合は乾式状態で、しかも紫外線等による油膜の化学変化に起因することを見出し、乾式オイルステンと名付けたと言っている。
オイルステインの生成機構
・湿式オイルステイン
上田ら1)は以下の生成機構であると言っている。
1)塗油鋼板の隙間に外部雰囲気より湿分が侵入し、油膜中、またはその間隙に水分が凝集する。
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2)凝集水は積み重ねられたいたの表面凹凸、油膜の分布状況、板間隙の微細な湿度変化による呼吸など によって鋼板間隙内の油膜内部、外部に侵入し、油膜内に電気化学的な部分を形成する。
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3)油膜の不均一性は、電気差の発生となって腐食電流が流れる。この際に生成するアノードとカソードはお互いに広い面積をもち、したがって浸食されるアノード側の浸食量も、生鮮するサビのデポジット量もともに薄層になると考えられる。このような理由により湿性オイルステンは淡黄色、紫色、灰色などのシマ模様を呈し、浸食がはっきり表れない。
成瀬ら4)は以下のように言っている。
1)水分を添加しない場合はいずれの添加剤もオイルステインを発生させなかったが、水分を増すにしたがってステインの生成量が多くなることが認められた。
2)オイルステインを発生させやすいさび止め添加剤は初期(3hr)は試験片のふちに淡かっ色のステインが現れるが、試験時間を長くするとステインは中心に広がり,添加剤の差が明瞭になる。
3)オイルステインを発生させやすいさび止め添加剤は、濃度が高いほどオイルステインの発生が大きくなる。
・乾式オイルステイン
上田ら5)はその発生原因は表面油膜の紫外線や熱による酸化ラッカーかであり、空気(酸素)の少ない雰囲気では発生しないと言っている。また、サビ止メ油の基油に大きく影響され、基油中の不飽和成分やイオウ化合物は乾式オイルステンを発生させやすいと言っている。
上田ら5)は乾式オイルステンはサビ止メ油が紫外線や熱による酸化劣化物がラッカー状に付着したもので、その発生は添加剤や酸化防止剤にはほとんど関係せず、基油中の不飽和成分や硫黄化合物に起因する。
広瀬ら6)はオイルステインは鉱油の精製度が悪いと、光、酸素の存在でおこり易く、波長360μmでの光酸化反応がその主原因と考えられると言っている。亜硫酸ガスと光の存在でスルホン酸が生成するので光スルホン酸化学反応も起こっていると思われると言っている。油焼け現象は、精製度の悪い鉱油の薄膜光酸化反応によって生じた物質が膜厚が、肉眼で観察できるほど厚くなったた認められる現象ではないかと言っている。
野瀬7)はさび止め油を塗布した鉄鋼製品を無包装で屋内貯蔵するいわゆる中間錆止め工程において発生するトラブルは主として夏季におけるオイルステインの生成であり、オイルステインが単なる紫外線の影響によって生成する事は考えにくいと言っている。一般に、このようなオイルステインの発生状況は次のようなものである。
(i)梅雨から初夏にかけて最も発生しやすい。
(ii)さび止め油塗布後比較定期早期(さび止め油と気象条件によっては2~3日)に発生し始め、早急に顕著になる。
(iii)風通しの良い場所のほうがむしろ発生しやすく、またしゃへい物があると発生しにくい。
(iv)塗布面の側面下部のように油膜が厚い部分にひどく発生することが多く、その部分は通常かっ色に変色する。
大気に直に触れる条件下での腐食生成物は主として赤さびの主成分であるオキシ水酸化鉄と大気中のSO2やNOxなど腐食性ガスと鉄の反応生成物からなるものであり、オイルステインには後者がより多く含まれている。錆止め油膜はSO2の担体として働いているものと考えられる。この場合、湿度が高いほどオイルステインが生成しやすい事実から考えると、さび止め油が水分を吸収し、これにSO2が溶解されるものと思われる。
オイルステインの対策
・湿式オイルステイン
上田ら1)は吸湿しにくいサビ止メ油膜であるか、吸湿しても電気抵抗の高い油膜を形成するもので達成されると言っている。
上田ら6)は湿性オイルステンの発生傾向は、主に、添加剤と鋼板の反応性に起因し、その防止には、侵入した水分をミセルに捕獲し、❝ノンアクティブ❞とするもので、さらに鋼板と反応して鉄化合物を生成しにくい添加剤が有効であると言っている。
成瀬ら8)は酸化防止能を有する物質(ラジカル捕捉剤、ある種の酸化剤、金属粉末及び金属塩)が油焼け抑制能が大きいと言っている。
・乾式オイルステイン
上田ら5)は基油の水添脱硫や溶剤精製処理により乾性オイルステンを軽減させることができると言っている。また、酸化防止剤や紫外線吸収剤は乾性オイルステンの防止に若干の効果があるが、基油の精製や選択のほうがより有効であると言っている。
参考文献
1)上田亨,田中和雄,寺下登至夫,吉田隆夫,丸善石油技報,15,p13(1970)
5)上田亨,田中和雄,寺下登至夫,丸善石油技報,16,p32(1971)
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